第19話 ようやくフランスに入る
1985年 9月29日(日)
今日フランスのアルルに行くようになる。
9:50発の電車を待った。昨夜の睡眠不足で駅で待つ間も電車に乗っても眠ってばかりいた。アルルは来るときに通過したところだ。途中から別れて入ったローヌ川がゆったり流れ,今までのスペインとはがらりと変わった。
電車を降り歩いて5分くらいのところの宿を予定していたが満杯で駄目だった。そこは麻美が前回来たときに泊まったホテルで、ゴッホが住んでいた家を改築してホテルにしたもの。奥まったところに二つ星の宿が見つかる。宿の親父はスペイン人に見えた。フランスと聞けば作法のやかましいところと思ったが、この親父は良くなく、強引にひきずりこまれた。夕食を外で取るといったらホテルの親父が世話してくれた。そこもスペイン人経営だった。

【娘の回想】
前回一人旅でアルルに来たときに,ホテルの前のテラスでくつろぐ宿泊客の老夫婦に呼び止められた。ホテルを探していると言うと、「このホテルはいいよ。きれいだし,食事もおいしい。私たちはいつもここに泊まるよ」と声をかけられ、幸いにもシングルルームが空いていたので即決した。フロントを出て、今部屋を取りましたと告げると、テラスのおばあさんは「よかった、よかった」ととても喜んだ。
そのホテルは母と息子で営む、こじんまりしたホテルだった。その後アルルの街で知り合った同じように一人旅する卒業旅行の日本人男性が今のホテルを変えたいと言い、他のホテルから引っ越してきた。それまで彼がいたホテルは、「地球の歩き方」で紹介されたからか日本人がたくさん宿泊しているそうだ。日本人に会うことなどほとんどない一人旅だったのに、なぜかそこにはたくさん日本人が居た。そこの親父さんが口やかましく辟易すると言っていた。彼を引き連れて来てもう一部屋取ると、女将さんは微笑ましいものを見るようにニコニコしていた。そんなんじゃないと全力で言い訳しておいた。
今回は空きがなかったが、明日は空くとのことなので予約した。女将さんも息子さんも前回宿泊した私のことを覚えていてくれた。「一人で来た日本人だよね」と。
二度目に訪れる土地で言葉も通じることから、ホッと安堵した。旅の楽しさは、言葉が通じない知らない土地で過ごすことにあると思うが、知っているからこその安らぎを感じた。


